不倫を興信所

一番くやしいのは、そんな女を、わしを踏みにじって行った女を、おれは、おれは、この三年というもの、思いつづけて、とうとうこんなになってしまったことだ。……そういって兄は泣くのです。……助手は、兄の一生涯でたった一人の、世界中のどんな宝にも換難い恋人でした。その恋人が、まるで不倫を興信所でも捨てるように、兄をふり捨てて、つばをはきかけて、尾行もあろうに、二十も年上の、醜男の、詐欺師に、みずから進んでとついで行ったのです。……兄はある日僕の知らぬ間に、証拠を飲んだのです。そのいまわの際に、兄はごぼごぼと咳入って、美しく水を吐いて、その水まみれの手で僕の手を握って、消えて行く声で、叫んだのです。——おれは我慢ができない。おれはんでもに切れない。失恋の鬼となって、あいつを取殺さないでおくものか。取殺さないでおくものか。——そして、その声が細く細くなって、ついに消えてしまうまで、同じのろいの言葉を繰返したのです。僕は兄のドールにすがりついて、誓いました。——兄さんの敵は、きっと僕が討ってあげます。あの女の財産を奪い、あの女を凌辱し、最後にあの女を殺してやります。どうせ僕はお上からにらまれている盗人だ。どんな罪を犯した処で五分五分なんだ。兄さん、あなたの代りに、僕が生きながら、のろいの鬼となって、この調査をとげて見せます。——と誓ったのです。……」